人の手で守り継がれた日本最大の野草地草原

⼈々の暮らしを⽀えた草原のイラスト

かつて阿蘇の草原は⽜⾺の放牧地として利⽤され、刈り取った草は⽜⾺のエサとなり、田畑の肥料として農業に利⽤され、茅葺き屋根の材料になるなど、⼈々の暮らしを⽀えるものでした。やがてライフスタイルの変化とともに、これらの営みは次第に薄れつつあります。

アフリカや⾼⼭の草原とは違い、阿蘇の草原は人の関わりなしには維持できません。⼈が⾃然と向き合い、千年もの永い間、⼿を加えることで培ってきた阿蘇の草原の中には、自然との共生の知恵が詰まっています。

いろいろな草原のイラスト

草原を維持する意義

阿蘇草原がもたらす4つの恵み

多様な生物のイラスト

1生物多様性

生き物の棲みかを守る

絶滅危惧種の「ヒナヒゴタイ」や「オグラセンソウ」をはじめとする約600種の希少な植物や昆虫が自生しています。さらに、それらの植物をエサとする昆虫や草食動物、肉食動物の食物連鎖を支えています。また、熊本県に生息するチョウ類117種のうち、109種は阿蘇草原に生息するため“チョウの楽園”と呼ばれています。

炭素筑西を表すイラスト

2炭素の固定

炭素を地中に溜める

阿蘇では、およそ1万年前の縄文時代から野焼きが行われていたことが確認されています。繰り返す野焼きによって、阿蘇の草原の地中には、膨大な量の炭素が蓄積されています。野焼きを行っている草原は、1年間に阿蘇地域の全家庭が排出する二酸化炭素の量の1.7倍の炭素を毎年固定していることから、地球温暖化防止にも貢献しています。

3水源の涵養

九州の水源を育む

草原は、雨水を土の中で貯え、ゆっくりと河川に送り出すことで、大雨の時でも一度に水を放出することなく、また、渇水時期でもゆっくりと水を放出し続けることができます。この機能のことを “水源涵養機能”といいます。近年の研究により、森林よりも草原の方が水源涵養機能が優れていることが明らかになっています。阿蘇の年間降水量は、全国平均の2倍となる約3,000mm/年。外輪山や阿蘇五岳などの山裾にしみこんだ雨は、6本の一級河川となって、流域人口約500万人の水を支えています。これが、九州の水がめと呼ばれる由縁です。

4減災

土砂災害の被害を緩和する

阿蘇地域の大部分は、火山灰が堆積した土壌であり、大雨などにより土砂災害が発生しやすいエリアです。火山灰土壌の下に固い火山性の岩盤があるため、木の根の張りは浅くなり、森林が崩壊を防げない場所も少なくありません。また、植林地が崩れた場合は、土砂と樹木が併せて崩壊し被害が甚大化する危険性が高まりますが、草原の場合は被害が小さく留まります。

Topics

阿蘇草原と観光

草原の上を放牧された牛馬が歩く牧歌的な風景は、阿蘇の風物詩。その風景は、年間約1,100万人の観光客が訪れる阿蘇の最大の魅力となっています。近年は、草原トレッキング、草原ライド、ナイトハイク、ヨガ、BBQ、乗馬など、草原の活用方法も広がりを見せており、観光客の阿蘇に対する需要はますます高まっています。

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草原の維持管理につながる活動はほかにもたくさんあります

そんな阿蘇が今、危機的状況に瀕しています。

30年後を目標に、
草原再生に挑む。
今、考える阿蘇草原の未来。

熊本県が2016年に行った調査では、30年後には約6割の草原面積が失われるかもしれないという未来が示唆されました。草原を取り巻く状況が非常に厳しい中で、30年後の目標を設定し、草原再生に取り組んでいます。